ひとつの言葉に、たくさんの意味
日本に来る前に覚える言葉をひとつだけ選ぶなら、すみませんにしましょう。「ちょっと失礼します」「ごめんなさい」「お手数をおかけしました」「すみませーん、こっちです!」を、これひとつでまかなえる万能ツールのような言葉です。日本のどの街でもひっきりなしに耳にしますし、聞こえるか聞こえないかのつぶやきから、店の奥まで届く明るい呼びかけまで、言い方もさまざまです。
「すみません」は、「済む」(片がつく、終わる)から来た「すまない」の丁寧な形です。おおまかに言えば「まだ済んでいない」「自分の中でまだ片がついていない」という意味です。自分が相手にかけた迷惑や、相手が自分にしてくれたことに対して、こちらはまだきちんと返しきれていない、と認める言葉なのです。だから場面によって「ごめんなさい」にも「ありがとう」にもなります。
謝罪は「罪の告白」ではなく、人づきあいの潤滑油
ここがわかると、すべてが見えてきます。日本の日常では、謝ることは必ずしも自分の非や過ちを認めることではありません。相手の空間に入ったこと、相手の時間をもらったこと、相手の一日にちょっとしたさざ波を立てたことを認めて、人と人との間の小さな引っかかりをならす仕草です。「すみません」と言うのは、自分が悪いことをしたという意味ではありません。相手がそこにいることに気づいていて、そのささやかな摩擦を気にかけている、という意味です。
だから多くの日本人は、とても気軽に、軽く謝ります。店員さんは商品を補充しようとあなたの横から手を伸ばすときに「すみません」と言います。サラリーマンは混んだ電車の中を通り抜けながら小声で言います。ドアを押さえてあげたおばあさんも「すみません」と言います。どれも罪の告白ではなく、周りへの小さな気づかいの表れです。
謝罪をこう捉えると、日本の人づきあいがぐっとわかりやすくなります。あちこちで絶えず聞こえる「すみません」は、罪悪感や卑屈さの表れではありません。日々のやりとりの角を丸く保とうという、みんなの暗黙の了解なのです。
ひとことで言えば:「すみません」は「あなたに気づいています。この小さな場面を大事にしています」という意味。気軽に、たくさん使って、軽いお辞儀を添えましょう。
知っておくと役立つこと
- 申し訳ございません — かしこまったビジネス用の言い方です。ホテルのフロントやデパート、駅のアナウンスでよく耳にします。直訳すると「言い訳のしようもありません」で、日本の接客がいちばん磨き上げられた形といえる言葉です。旅行者が自分で使う必要はありません。
- 大丈夫です — 「平気ですよ、気にしないで」という意味で、相手から謝られたときの自然な返事です。店員さんがお釣りを落とした、隣の乗客がバッグにぶつかった。そんなときは笑顔で「大丈夫です」と言えば、相手もほっとします。
- お辞儀の深さは、事の重さに比例する — ちょっとした場面なら軽い会釈で十分です。日本のビジネスマナーの解説では、軽いお辞儀はおよそ15度、丁寧なお辞儀はおよそ30度、いちばん深いお辞儀はおよそ45度とされることが多く、深いお辞儀は深刻な謝罪や心からの感謝のときに使います。場面の重さに合わせて深さを変えましょう。
- 「いらっしゃいませ」 — お店や飲食店に入ると聞こえてくる元気なかけ声です。謝罪ではありませんし、返事が必要なあいさつでもありません。軽くうなずくか微笑むだけで十分で、何か言い返す必要はありません。
- 「お邪魔します」 — 「おじゃまさせていただきます」という意味で、人の家に上がるときに言う言葉です。相手の空間に踏み込むことへの断りなので、謝罪に近い表現です。日本の家庭に招かれたときのために、ぜひ覚えておきたいひと言です。
クイズで確認
「すみません」の感覚がつかめたか、3問で確かめてみましょう。